大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和58年(ワ)696号 判決

原告

菊地貴広

ほか二名

被告

サンインテリア株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自、原告菊地貴広に対し金八六万八四八九円、原告菊地吉男に対し金八万二六三九円、原告菊地充子に対し金五九万〇六三二円並びに右のうち原告菊地貴広に対する金七〇万円、原告菊地吉男に対する金六万六六〇〇円、原告菊地充子に対する金四七万六一六〇円についてはそれぞれ昭和五六年一二月三〇日から、原告菊地貴広に対する金一六万八四八九円、原告菊地吉男に対する金一万六〇三九円、原告菊地充子に対する金一一万四四七二円についてはそれぞれ本判決確定の日の翌日から、各完済まで各年五分の金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

一  原告らは、「被告らは各自、原告菊地貴広に対し金一〇八万三〇四〇円、原告菊地吉男に対し金一〇万〇二〇〇円、原告菊地充子に対し金七二万四三〇〇円並びに右のうち原告菊地貴広に対する金八九万円、原告菊地吉男に対する金八万二三四〇円、原告菊地充子に対する金五九万五二〇〇円についてはそれぞれ昭和五六年一二月三〇日から、原告菊地貴広に対する金一九万三〇四〇円、原告菊地吉男に対する金一万七八六〇円、原告菊地充子に対する金一二万九一〇〇円についてはそれぞれ本判決確定の日から、各完済まで各年五分の金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、請求の原因として左のとおり主張した。

1(一)  昭和五六年一二月二九日午後零時三三分ころ、市川市曾谷七丁目一三番一四号の原告ら住居地先路上(以下「本件道路」という。)で、被告三澤俊人(以下「被告三澤」という。)の運転する普通貨物自動車(以下「事故車」という。)が後進中、同所で遊んでいた原告菊地貴広(以下「原告貴広」という。)に衝突し受傷させる事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(二)  原告貴広は昭和五四年九月一日生まれで本件事故当時満二歳であつた。原告菊地吉男(以下「原告吉男」という。)は原告貴広の父であり、原告菊地充子(以下「原告充子」という。)は原告貴広の母である。

(三)  被告サンインテリア株式会社(以下「被告会社」という。)は、室内装飾の加工販売等を目的とする株式会社で、事故車を保有し、被告三澤の使用者であり、本件事故時における事故車の運行は被告会社の用に供されていたものである。

(四)  本件事故は、被告三澤の一方的な過失によつて発生した。すなわち、本件道路は、市川市内の住宅地内にある幅員約三・六メートルの狭い行止まりの袋小路である。事故車は車幅が一・七メートルであり、被告三澤はこれを誘導すべき同乗者もないままに本件道路に後退させて進入したのであるが、このような場合、本件道路の状態からして子供の飛び出し等の事態があることを予想し、進入前はもちろん、進入中も後方の安全を十分に確認し、危険が生じたときは直ちに停止できる速度で進行することが、自動車運転者に当然に要求される注意義務である。しかるに、被告三澤は、本件道路に進入直後、一旦停止して後方に注意したものの、その後は、右後方に注意を向けて左後方への注意を怠つたまま漫然と後進を続け、しかも、原告ら住居の直前でそれまでの時速約一〇キロメートルから加速して進行したのであり、このため、原告らの住居から玩具の車に乗つて出てきた原告貴広に気付かず、同原告に事故車の左前部車輪を衝突させたものである。

(五)  よつて、被告会社は、主位的には自動車損害賠償保障法三条により、予備的には民法七一五条により、また、被告三澤は民法七〇九条により、それぞれ原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

(六)  本件事故により、原告貴広は外傷性肝破裂の傷害を負い、入院三三日、通院七日(昭和五七年一月三一日から同年七月二日の間)の治療を受けたのち、現在は症状が一応安定するに至つている。右入院中は、原告貴広が幼少のため母である原告充子が常時付添い看護に当たつた。このため、原告貴広の姉麻里(当時五歳)を他に預けざるをえなかつた。また、退院後も、再破裂を防ぐため、原告貴広の養育には細心の注意を要し、このため原告充子は、入院時に引き続き外での就業が不可能となり、勤務先の株式会社早川精密からの賃金を計二四八日間にわたつて得ることができなかつた(なお、後記(2)カの検査費用以外の原告貴広の治療費は、全て被告会社加入の自賠責保険金で支払われた。)。

(1) 原告貴広の損害

慰藉料 八九万円

(2) 原告吉男の損害

ア 入院看護中の原告充子の食事費用 三万九六〇〇円

イ 入院雑費 三万三〇〇〇円

ウ 通院交通費 二万〇〇四〇円

エ 麻里の臨時保育費 一〇万円

オ 麻里の臨時保育雑費 二万円

カ 昭和五八年六月五日の検査費用 二万九一二〇円

キ 同右交通費 五二〇円

小計金二四万二二八〇円のところ、原告吉男は被告会社等から本件事故の損害賠償の一部として金一五万九九四〇円を受領したので、これを控除すると、原告吉男の未払損害額は金八万三二四〇円である。

(3) 原告充子の損害

前記就業不能による逸失利益 五九万五二〇〇円

(4) 原告らは、本件訴訟を提起するにあたり、原告吉男が本人兼原告貴広及び原告充子の代理人として、原告ら訴訟代理人との間で、原告ら全員についての着手金一五万円を支払つたうえ、原告ら勝訴の判決が確定したときは原告ら全員についての成功報酬として日弁連報酬基準標準額による支払をすることを約した。本訴における原告らの請求金額合計一五六万円余に対する右標準額は金一九万円である。結局、弁護士費用は合計三四万円となるが、これを原告らの請求金額に按分すると、原告貴広については金一九万三〇四〇円、原告吉男については金一万七八六〇円、原告充子については金一二万九一〇〇円となる。

(七)  よつて、各原告らは被告ら各自に対し前記(六)の(1)ないし(3)の各損害額と同(4)の弁護士費用の支払を求めるとともに、前者については不法行為の日の翌日から、後者については本判決確定の日から、各完済までの民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める。

二  被告会社は、適式の呼出を受けたのに、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しなかつた。

三  被告三澤は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、請求原因(一)ないし(四)のうち被告三澤に関する部分は認める、同(六)の事実は知らないと述べた。

四  証拠として、原告は、甲第一ないし第八号証を提出し、原告菊地吉男本人尋問の結果を採用し、被告三澤は、甲各号証の成立(第一ないし第六号証については原本の存在も)を認めた。

理由

一  被告会社に対する請求

被告会社は、請求原因事実を明らかに争わないと認められるから、これを自白したものとみなす。但し、損害賠償額(特に慰藉料の額)の決定については、裁判所の裁量判断が働くという事柄の性質上、自白の拘束力にも自ら限度があるので、被告会社に対する原告らの請求(自賠法三条に基づく主位的請求)も、後記の被告三澤についての認容額の限度で理由があるとすべきものである。

二  被告三澤に対する請求

1  請求原因(一)ないし(四)のうち、被告三澤に関する部分は当事者間に争いがない。右事実によれば、本件事故は被告三澤の運転上の過失に起因するものと認めることができる。もつとも、請求原因(四)のうちには、例えば「本件事故が被告三澤の一方的な過失によつて発生した」旨の主張も含まれているが、弁論の全趣旨によれば、被告三澤は、このような過失の程度・割合という法的評価に属する原告らの主張をも全面的に認めたものとは解されない節があるばかりか、原告らの主張自体によつても、原告貴広の行動態様や事故車との衝突の位置関係からして、被告三澤が本件道路上に居た原告貴広に気付かずに事故車を一方的に衝突させたというものではなく、後進中の事故車が丁度原告らの住居前に差しかかつた際、原告貴広が原告ら住居内から本件道路上に飛び出し、事故車の後輪と前輪の間にもぐり込むような状態となつたうえで、その前輪と衝突したものと解されるのであつて、このような趣旨の主張を被告三澤が自白したからといつて、本件事故が同被告の一方的な過失によつて発生したとする原告らの主張に裁判所が拘束されねばならないものではない。そうして、被告三澤は、明示的には、本件事故の発生につき原告貴広ないしその保護者である原告吉男らにも過失があり過失相殺がなされるべきであるとの主張はしていないが、当事者間に争いのない原告らの主張自体のなかに被害者側の過失の存在を認める趣旨に解されるものがある本件においては、当裁判所が相応の過失相殺を認めることもできると解する。

右の視点に立つて検討すると、右の当事者間に争いのない事実と原本の存在及び成立に争いのない甲第一、第二号証及び原告菊地吉男本人尋問の結果によれば、本件事故の発生につき、被告三澤に後方左側に対する注視義務等の点で足らないところがあり、同被告の過失は否定できるものではないが、原告貴広においても、原告吉男が目を離した僅かな間に、玩具の車に乗り足で地面を蹴りながら、原告らの住居敷地内から、これに接続する本件道路上の交通に注意を払うことなく突然飛び出し、丁度通りかかつた事故車の下に突つ込むような形となり、これに気付かずに後進を続けた事故車の左前輪と衝突したものと認められる。

そうすると、本件道路が住居地内の狭い行止まりの袋小路である点を考慮に入れても、被害者側である原告らにも若干の過失があつたと言わざるをえず、その過失割合は約二割程度と認められる。

2  原本の存在と成立に争いのない甲第四ないし第六号証、成立に争いのない第七、第八号証と原告菊地吉男本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、請求原因(六)の事実関係(原告貴広の慰藉料額は除く。)を認めることができる。

そこで、前認定の過失割合を斟酌しつつ原告らの蒙つた損害額を算定すると、原告貴広の慰藉料額は金七〇万円が相当であり、原告吉男の未払損害額を填補するには金六万六六〇〇円を要すると認められ、また、原告充子の逸失利益分の損害は金四七万六一六〇円であると認められる。

また、弁護士費用については、既に着手金一五万円が支払済みであると認められるところ、本判決確定後に支払われるべき報酬額としては、各原告についての認容額のそれぞれ約一二パーセントが相当と認められ、原告貴広については金八万四〇〇〇円、原告吉男については金八〇〇〇円、原告充子については金五万七〇〇〇円が相当である。そうすると、前記着手金一五万円を各原告についての認容額に按分し、右の報酬額と加算すれば、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は、原告貴広については金一六万八、四八九円、原告吉男については金一万六〇三九円、原告充子については金一一万四四七二円となる。

3  以上のとおりで、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、弁護士費用以外の損害賠償として原告貴広につき金七〇万円、原告吉男につき金六万六六〇〇円、原告充子につき金四七万六一六〇円及び右各員に対する昭和五六年一二月三〇日から完済までの民事法定利率年五分の遅延損害金並びに弁護士費用の損害賠償として原告貴広につき金一六万八四八九円、原告吉男につき金一万六、〇三九円、原告充子につき金一一万四四七二円及び右各金員に対する本判決確定の日の翌日から完済までの前同遅延損害の各支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 友納治夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例